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2012年5月30日 (水)

日本水彩の記事から

面倒くさくて読みたくないと云われそうなのは覚悟の上で、ももりの書いた文をここにアップしました。日本水彩会の会誌です。


絵を描くのは子供の頃から大好きでしたが、他に大好きなのが旅です。娘時代の山登りから始まり、今日まで、暇があればスケッチブックを持ってフラフラ歩きまわっています。
 30代の終わり頃から、興味は世界へ。
ラスコー、アルタミラ、ミノア文明のクレタ島、旧約聖書の世界シリア、ヨルダン、エジプト、ギリシャ、ローマ、トルコやシチリア島のビザンチン、中世ロマネスク、ルネサンスと見て歩きました。美術書を見てムラムラとわき起こる好奇心を満たす旅です。アッシリアやヒッタイトはさすがに怖い。イランやイラクには行けません。でもチョコッとだけなら、大英博物館やベルリンで見ました。
 勿論、予算や時間も限られた格安パックツアーがほとんどで、見て歩いたとえらそうに云えるほどではありません。
 しかしまあ!人類、描きも描いたり!洞窟から、岩山、しっくい壁、果ては大聖堂にと、びっしり描き込んでいます。風雨に曝されて摩滅した部分を補完してみると、それらは正しく、すざまじくも激しい生命の饗宴、喜びあり、祈りあり、残酷あり、戦いあり・・・人間のさがの全てが表出されてあります。
 野生動物を賛美したラスコー、アルタミラ。まぼろしの大陸アトランティスもかくやと、わくわくするほど明るくてモダンで健康的なミノア文明のクレタ島やサントリーニ島、死後の生のために、ここまでやるかと驚くファラオたちの奔放なイメージの世界、完璧なることここに極まれりと云うべきギリシャ、油っこいローマ、キンキラキンと永遠に輝きそうなビザンチンのモザイク・・・

 そして、今、私が一番好きなのが中世ロマネスクです。完成しきったギリシャ、ローマを知らないかのような民衆の芸術で、神への憧れにつき動かされた大衆が造り上げた、どこか幼い物語の世界。フランスやスペインの片田舎にひっそりと残るロマネスクの世界が、今後の私の旅のターゲットです。
 ルネサンス以降は、日本にいながらにして相当数を見られます。絵画は縁縁に収まっていて、日本各地の美術館や博物館に宣伝解説つきで来てくれるのですから。
 長い歴史の空間では、様々な技術や画材の革新がありました。例えば、麻のキャンバスはルネサンスの頃、ヴェネツィアで作り出されたといいます。海運業で富をなしたヴェネツィアの丈夫な帆布に、ボロニア石膏とジンクホワイトを地塗りしてキャンバスの既製品ができました。それと、当時、技術革新目覚ましかった油絵の具や水彩絵の具と相まって、それ以前の工房の大仕事、板を完璧に乾燥し、徹底的に平らにし、地塗りをし・・・という徒弟制度による工房の仕事から個人の領域へと絵画は降りてきたのです。私風に云えば、印象派は素人の集団。そして、素人がそれぞれに工夫をこらして創意工夫をしたところこそが魅力なのでしょう。
 面白いことに、ラスコーやアルタミラ、サントリーニ島には発掘された顔料が展示されていました。たまたま、過去にテンペラ画法を習っていた私にとって、過去の画人たちが、急に身近になった瞬間でした。この色の塊りを磨り潰し、接着性のメディウムで塗りつけた画面が、7千年、5千年の年月を生きのびて、私に笑いかけているのです。「ホラ、見ろ」って。旧石器時代の画人との感動の対面です。
 ひるがえって、描き手と云うものは、一体、変わったのか、進歩したのか。
 太古、草原を失踪する野獣を追っていた頃の画人と現代の画人達。自らが創り上げてしまった虚構のように不自然極まりない現代文明の迷路の落とし穴のなかで、あるものは苦しんで描いています。
 なんだか古いほど凄い!直裁で正直で強い。ピカソくらいなら古代の野生と競えるか?
 しかし、私も描かなくてはなりません。満点の星空にきらめく無数の星に、もう一つ星くずを加えようというのか?
 私の旅は忙しい。パックツアーは殊更に忙しい。めまぐるしく歩きまわりながら何でも描きとめる。10日ほど行ったら100枚以上は描く。ホテルで色付けをする。水彩だから乾かないと次へ進めないので、部屋に入ると先ず1、2枚、お湯をはりながら3、4枚、食事の後に4、5枚。夜中に何度かチョコチョコ。旅の途中で画集が一冊できあがる。尤も、これ等はメモで、作品とはとても言えない。ビールかワインが横にあれば、もう、この夜なべ仕事は至上の悦楽です。帰国してホームページやブログにアップするというおまけつきだから、足腰の立つ間、旅の為に働き、この夜なべを続けたいものです。
 旅で見た極端な富と極貧。そして、抱いてしまった、自分が生きているということの負い目、罪悪感、漠然とした不安感を紙の上に写せたらなあ・・・と、これはなんとも大それた望みを抱いて、今も紙面に向かっております。strong>

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コメント

面白い記事です。
とても説得力があります。
キャンバスの発達とヴェネツィア・・・。
ヴェネツァ大好きの私ですが、海運業と結び付けるところまでいきませんでした。なるほど、なるほど。
表で見る絵の裏側史。これからも時々書いてくださいね。
興味津々!

投稿: ちゃぐまま | 2012年6月25日 (月) 22時11分

kazuyoo様   以前アボリジニの絵画展を見たのですが、白、赤、茶色、黒、黄色くらいの少ない色数の絵の具による古い絵の方が、最近もてはやされてるらしいアボリジニ作家のアクリル絵の具の新しい絵よりもよッぽど奥行き深く直裁で野趣溢れていました。絵の具の進歩って、絵を良くするとは限らないようです。

あきみず様  お・お・お・・・高島屋にあったのですか。そう・・・ある意味、デザイナーは好きな要求を突きつけるんですけど、それを実際ニ作って、しかも長年使って壊れないように強度をもたせて実現するのは本当に大変なようですよ。


玉井人ひろた様  有難うございます。感受性はともかく、好奇心は負けませんねえ。でも、最近膝がちょっと・・・イマイチ・・・好奇心を満たせないんです。

nyar-nyar様  今、東京都立美術館に私の絵並んでるはずなんですが・・・
京都に巡回展が回ってくるようになってから、東京は欠礼しています。もし、賞とか取ったら、そりゃあ
行きますけど・・・クシュン


ちゃぐまま様  旅は勿論楽しいですけど・・・夜なべが又楽しくってねえ。間もなくオーストリア、チロル地方に出かけます。あ・あ・あ・・・それが楽しみで生きてます。なあんて・・・は・は・は・

おばさん様  小憎らしい記事によくお付き合いくださいました。感謝いたします。だいたい・・・少々・・・大分???相当???理屈っぽいんですから・・・

投稿: 山口ももり | 2012年6月 5日 (火) 08時51分

ももり様の引き出しを覗いてみたい。
興味深く拝見しました。

絵1枚に人間の性が表出されているんですから、
芸術は素晴らしいと言わざるを得ないですね。

投稿: おばさん | 2012年6月 4日 (月) 23時09分

この長ーい文章に納まりきれないほど
ももりさんのエネルギーが場外であばれて
いるのが見えます。o(^-^)o 
画材の話は面白いです。絵だけよりそれを聞くと
絵にも深みが出ます。
人間の歴史と進歩が裏打ちされているんですからね。

旅のスケッチの秘密もやっとわかりました。
小さな時間を見つけては描く、描く、描く、描く。
その目的があるから旅が続けられるのですね。

投稿: ちゃぐまま | 2012年6月 4日 (月) 22時09分

つくづくすごいと思います、
何処へでも(私が知らない国が多いですけど(゚ー゚;)身軽に出かけられるって素晴らしいと思います。
行った先で10日滞在なら100枚のスケッチ
ゆっくり見物や観光は出来ていないのではないかしら?
まだまだこれからも、勿論元気良く出掛けられるのですよね

投稿: nyar-nyar | 2012年6月 1日 (金) 12時18分

好奇心と感受性があってこその絵画だと思います。
ももりさんは両方をちゃんとかね添えていることが確認できました

投稿: 玉井人ひろた | 2012年6月 1日 (金) 11時28分

高島屋サロン手に入れました 木工の職人さんなのですね
技術屋さんは、要求の高いほどやる気が湧いて来るものです なんとしても完成させるDNAが日本人には流れています
OOが無くても乗り越えるすべを考えます。

投稿: あきみず | 2012年5月30日 (水) 15時54分

ほんとにありとあらゆる場所に、線画から彫り上げたり盛り上げたりです。
自分を基準に考えてはいけないと思いながらです。
>フランスやスペインの片田舎にひっそりと残るロマネスクの世界
今年中には行かれるのでしょうね。
過去の顔料が何かを類推できるのでしょう。もちろん科学の発展のおかげですが。
うふふふ、100枚もですか~。ホテルに帰られてもこんなにお忙しくてはです。それでも欲求の方が強くていらっしゃる、うんと沢山描いてきてください~。

投稿: kazuyoo60 | 2012年5月30日 (水) 14時01分

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