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2006年7月25日 (火)

マドリッドのルカ-19

_027
 午前2時、ぐっすり眠り込んでいた私たちの部屋の扉をホトホトとたたく音。ルカが立っていた。手に畳んだダンボール箱を持っている。
「どうしたの。こんな夜中に、一人なの」
「ジンとけんかしたんです。突然帰るって言い出すなんて残酷だ、エゴイストだって」
「こんな時間に追い出したの」
ルカは醒めた顔でうなずいた。「私のほうがもう冷静なんです。この部屋は僕の部屋だから出て行ってほしいって。もう、顔も見たくないって」
「結構じゃないの。刃物振り回すなんてことはなかったのね」ルカは楽しそうにうなずいた。
「けんかしながら荷物をまとめたの」
「ルカちゃん、男と見事に別れるなんてえらい」
「ジンは愛するならそんな残酷なことできないはずだとか、みんなに今度こそ本当に愛する人に出会ったとか、友達に紹介してバカみたいだとか、ウソつきだって」
「自分こそ、仕事があるって、日本から呼び出したんじゃない」母親の眉毛が上がる。
「わたしもそう言ったわ」私はルカと母親をさえぎった。
「今、そんな話してる場合じゃないよ。とも角、ルカちゃんは身一つで出てきたんだ。そしてもう戻れない。私たちがここを発つのは今日の9時。荷物を部屋から出すのは8時45分、それまでに、とにかくルカちゃんのために、この部屋をもう1箔予約して、荷物を運び込まなくっちゃ。ルカちゃん、荷物はいくつにまとまったの」
「5つです。後は捨てるものと冬もののオーバーです」
「捨てられないものなの」
母親がさえぎった。
「この子の物はみな良い物ばかりなの。ルカ、あんた、バカじゃない。どうして、空のダンボール箱しか持って出てこなかったのよ」
「ともかく、今、いくらお金があるの。荷物を日本へ送るのにもお金はいるし、ホテルの支払いもいるわ。日本へ帰ってから、成田から京都までだってお金がいるのよ」
ルカの母親は引ったくられて無一文。ルカはほんの8000ペセタも持っていなかった。私は海外旅行をする時は現金を持たない。わたしの全財産は1万ペセタと、ポケットに縫いこんだ4万円だけだ。それしかない。
「日本へ帰って、あなたの働いたお金で返してちょうだい」
「5個の荷物ならお母さんと私が1つずつ、ルカちゃんが3つよね。それは、なんとか、自分で持って帰りなさい」
私はスーツケースの荷物をぎゅっと押し込んでスペースを空けた。ルカの母親のあの大きなスーツケースは鍵を盗られて、無用の長物なのだ。
「今から、荷物を取りに行けない」
「真夜中では、管理人の持っている1階の鍵が開きません」
スペインの朝は遅い。(No375)

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コメント

こんばんは!
ルカさん、やはり分かれてきましたか・・・。
悪縁は早く切らないといけませんよね。

投稿: むろぴい | 2006年7月25日 (火) 23時48分

 いやー,一気に読みました。ちょっと話は聞いてたけど,迫力ありますな。

投稿: BONたぬ | 2006年7月25日 (火) 20時26分

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